キアリ奇形と脊髄空洞症は、いずれも脳と脊髄の境目である頭蓋頚椎移行部に関連する疾患です。
特にキアリI型奇形では、脊髄空洞症を合併することがあります。
キアリI型奇形では、小脳の一部である小脳扁桃が大後頭孔から下方へ下垂することで、頭蓋内と脊柱管の間を流れる脳脊髄液(髄液)の流れが障害されることがあります。その結果、脊髄の内部に髄液がたまった「脊髄空洞」が形成されることがあります。
一方、脊髄空洞症はキアリ奇形だけで起こるわけではなく、脊髄腫瘍、脊髄損傷、くも膜炎、係留脊髄など、さまざまな原因によって生じることがあります。
そのため、MRIなどで脊髄空洞が見つかった場合には、空洞そのものだけを見るのではなく、その原因を詳しく調べることが重要です。
キアリI型奇形とは?
キアリ奇形にはいくつかのタイプがありますが、成人で問題となるのは主にキアリI型奇形(Chiari I malformation)です。
キアリI型奇形では、小脳の下部にある小脳扁桃が大後頭孔より下方に下垂しています。
小脳扁桃の下垂によって、大後頭孔周囲で脳幹や脊髄が圧迫されたり、髄液の流れが妨げられたりすることがあります。
ただし、小脳扁桃が何mm下垂しているかだけで、キアリI型奇形の診断や重症度を決めることはできません。
MRIでは小脳扁桃の位置だけでなく、後頭蓋窩や頭蓋頚椎移行部の形態、脳幹・脊髄への圧迫、髄液の流れ、脊髄空洞症の有無などを総合的に評価します。
実際、国際的な専門家のコンセンサスでも、単純な「5 mmルール」だけでキアリI型奇形を判断することは適切ではないとされています。(*参考文献 Bolognese PA, Brodbelt A, Bloom AB, et al. World Neurosurg. 2019.)
キアリ奇形ではなぜ症状が起こるのでしょうか?
キアリI型奇形では、主に2つの機序が症状に関係すると考えられています。
一つは、下垂した小脳扁桃などによる脳幹・脊髄への圧迫です。
もう一つは、大後頭孔周囲での髄液の流れの障害です。
脳と脊髄の周囲には脳脊髄液(髄液)が循環しており、頭蓋内と脊柱管内の間でも髄液が移動しています。
キアリI型奇形では、大後頭孔周囲が狭くなることでこの流れが妨げられ、症状や脊髄空洞症の形成に関係すると考えられています。
脊髄空洞症とは?
脊髄空洞症とは、脊髄の内部に液体がたまった空洞(syrinx)が形成される状態です。
脊髄空洞は頚髄から上位胸髄に形成されることが多く、空洞が大きくなると脊髄内部を走る神経線維が障害されます。
脊髄空洞症では、特徴的な感覚障害として解離性感覚障害がみられることがあります。
これは、痛みや温度を感じる感覚が障害される一方で、触覚や位置覚などが比較的保たれる状態です。
特に頚髄に空洞が形成されると、肩から腕、手にかけて痛みや温度感覚が低下することがあり、「宙吊り型」「ショール型」の温痛覚障害と呼ばれることがあります。
キアリ奇形と脊髄空洞症はどのように関係していますか?
キアリI型奇形では、大後頭孔周囲の髄液循環が障害されることで、脊髄内に空洞が形成されることがあります。
そのため、キアリI型奇形が見つかった場合には、脊髄空洞症を合併していないかを確認することが重要です。
一方、脊髄空洞症が見つかった場合には、キアリ奇形だけでなく、脊髄腫瘍、脊髄損傷後の変化、くも膜炎、係留脊髄など、他の原因についても検討する必要があります。
したがって、「脊髄空洞症がある=キアリ奇形」とは限りません。
脊髄空洞症の診断では、空洞の存在を確認するだけでなく、その原因となる髄液循環障害や脊髄・脊椎の病変を評価することが重要です。
どのような症状が起こりますか?
キアリI型奇形では、症状がほとんどない場合もあります。
症状がある場合には、以下のようなものがあります。
咳やくしゃみで悪化する後頭部痛
キアリI型奇形に特徴的な症状の一つです。
咳、くしゃみ、いきみなどによって後頭部から首にかけて痛みが誘発・増悪することがあります。
これは大後頭孔周囲の髄液循環障害などが関係すると考えられています。
ただし、頭痛があるだけでキアリ奇形と判断することはできません。
首や肩の痛み
後頭部から後頚部、肩にかけて痛みや違和感を感じることがあります。
手足のしびれ・感覚障害
脊髄空洞症を合併している場合には、手や腕を中心として温度や痛みを感じにくくなることがあります。
左右差がある場合や、徐々に範囲が広がっていく場合もあります。
筋力低下
脊髄や神経組織への障害が進行すると、手や腕、足などに力が入りにくくなることがあります。
手の細かい動作がしにくくなる、物を落とすなどの症状として気づく場合もあります。
歩行障害・ふらつき
脊髄や小脳、脳幹などへの影響によって、歩行が不安定になったり、ふらつきが生じたりすることがあります。
嚥下障害・構音障害
まれに、脳幹が強く圧迫されることで、飲み込みにくさや、言葉が発音しにくいなどの症状がみられることがあります。
キアリ奇形・脊髄空洞症の検査
MRI検査
MRIは、キアリI型奇形と脊髄空洞症の評価において中心となる検査です。
頭蓋頚椎移行部の形態、小脳扁桃の下垂、脳幹や脊髄への圧迫、脊髄空洞症の有無などを確認します。
また、脊髄空洞症が認められた場合には、空洞がどの範囲に及んでいるかだけでなく、その原因を調べるために脳から脊髄まで広い範囲をMRIで評価することがあります。
CT・X線検査
頭蓋頚椎移行部の骨性構造を詳しく評価するために、CTやX線検査を行う場合があります。
特に、頭蓋底陥入(basilar invagination)や環軸椎不安定性などの骨・関節の異常が疑われる場合には、これらの評価が重要になります。
治療は必要ですか?
キアリI型奇形がMRIで見つかったからといって、すべての患者さんに手術が必要になるわけではありません。
症状がなく、画像上も進行性の変化がない場合には、経過観察を行うことがあります。
一方、キアリI型奇形による症状が明らかな場合や、脊髄空洞症を伴う場合、あるいはMRIで進行性の変化が確認される場合には、手術を検討します。
手術の適応は、小脳扁桃の下垂量だけで決めるのではなく、症状、脊髄空洞症の有無、画像所見、髄液循環、病変の進行性などを総合して判断します。
キアリ奇形の手術
キアリI型奇形に対する代表的な手術は、大後頭孔減圧術(foramen magnum decompression:FMD)です。
大後頭孔周囲の骨を拡大して、脳幹・脊髄への圧迫を軽減するとともに、髄液が頭蓋内と脊柱管内を円滑に循環できるようにすることを目的とします。
成人では、症例によって硬膜を開放して自家・人工硬膜などで拡大する硬膜形成術(duraplasty)を追加することがあります。
一方、手術方法は患者さんの年齢、症状、脊髄空洞症の大きさ、頭蓋頚椎移行部の形態などによって異なります。
脊髄空洞症がある場合はどう治療しますか?
キアリI型奇形に脊髄空洞症を合併している場合、まずキアリ奇形による髄液循環障害を改善することが基本です。
大後頭孔減圧術によって髄液の流れを改善すると、脊髄空洞が徐々に縮小することがあります。
減圧術後も空洞が残存・増大する場合や、再手術が必要となった場合には、追加の治療を検討します。
脊髄空洞症の原因がキアリ奇形以外にある場合には、その原因に応じた治療が必要です。
頭蓋頚椎移行部の異常を伴う場合
キアリI型奇形の患者さんの中には、頭蓋底陥入(basilar invagination)や環軸椎不安定性など、頭蓋頚椎移行部の骨・関節の異常を伴う場合があります。
このような場合には、単純な大後頭孔減圧術だけではなく、頭蓋頚椎移行部の安定性や骨性構造を詳しく評価する必要があります。
特に環軸椎不安定性などを伴う場合には、固定術を含めた治療が検討されることがあります。
そのため、キアリI型奇形では小脳扁桃の位置だけでなく、頭蓋頚椎移行部全体の解剖学的・機能的な評価が重要です。
こんな症状でお困りではありませんか?
- 咳やくしゃみをすると後頭部が強く痛む
- 力むと後頭部や首の痛みが悪化する
- 後頭部から首にかけて痛みが続いている
- 手や腕のしびれが続いている
- 温度や痛みを感じにくい部分がある
- 手に力が入りにくい
- 手先の細かい動作がしにくくなった
- 物を落とすことが増えた
- 足がもつれる、歩行が不安定になった
- 原因の分からないふらつきが続いている
- 飲み込みにくさや発音のしにくさがある
- MRIで「小脳扁桃下垂」「キアリ奇形」「脊髄空洞症」を指摘された
このような症状がある場合や、MRIでキアリ奇形・脊髄空洞症を指摘された場合には、症状と画像所見を合わせて評価することが重要です。
当院では、脳神経外科・脊椎脊髄外科の専門的な視点から、MRIなどを用いてキアリ奇形や脊髄空洞症の状態を評価します。
手術の必要性がある場合や、専門的な治療が必要と判断した場合には、適切な専門医療機関と連携して治療につなげます。
気になる症状がありましたら、お気軽にご相談ください。
よくある質問
- MRIで「小脳扁桃が下がっている」と言われました。キアリ奇形ですか?
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小脳扁桃が大後頭孔より下方に位置していても、それだけでキアリI型奇形と診断できるわけではありません。
小脳扁桃の下垂量だけでなく、頭蓋頚椎移行部の形態、脳幹・脊髄への圧迫、髄液の流れ、症状、脊髄空洞症の有無などを総合的に評価します。
- キアリ奇形があれば手術が必要ですか?
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必ずしも手術が必要なわけではありません。
症状がなく、画像上も進行性の変化がない場合には、経過観察となることがあります。
一方、キアリ奇形による症状が明らかな場合や、脊髄空洞症を伴う場合、MRIで進行性の変化が認められる場合には、手術を検討します。
- 脊髄空洞症があると必ず手術が必要ですか?
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必ずしもそうではありません。
脊髄空洞症の原因や大きさ、症状、進行性などによって治療方針は異なります。
キアリI型奇形に伴う脊髄空洞症では、キアリ奇形による髄液循環障害を改善することが基本となります。
- 脊髄空洞症はキアリ奇形が原因ですか?
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キアリI型奇形は脊髄空洞症の代表的な原因の一つですが、すべての脊髄空洞症がキアリ奇形によるものではありません。
脊髄腫瘍、脊髄損傷、くも膜炎、係留脊髄など、さまざまな原因があります。
そのため、脊髄空洞症が見つかった場合には、原因を詳しく調べることが重要です。
- 脊髄空洞症は自然に小さくなることがありますか?
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原因によって異なります。
キアリI型奇形に伴う脊髄空洞症では、髄液循環が改善することで空洞が自然に縮小することがあります。
一方、空洞が増大している場合や神経症状が進行している場合には、専門医による評価と治療が必要です。
- キアリ奇形の手術では、脊髄空洞症そのものを手術するのですか?
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必ずしもそうではありません。
キアリI型奇形に伴う脊髄空洞症では、まず大後頭孔減圧術によって髄液循環を改善し、その後の空洞の変化を確認することが一般的です。
減圧術を行っても空洞が残存・増大する場合には、追加治療を検討します。
