後縦靱帯骨化症

後縦靱帯骨化症(ossification of the posterior longitudinal ligament:OPLL)は、脊椎の椎体後面に沿って走る後縦靱帯が骨化する疾患です。

後縦靱帯は、脊椎を安定させるとともに、脊髄の前方に位置して脊柱管の一部を構成しています。この靱帯が骨化して厚くなると、脊柱管が狭くなり、脊髄や神経根を圧迫することがあります。

後縦靱帯骨化症は頚椎に最も多くみられますが、胸椎や腰椎にも生じることがあります。また、後縦靱帯だけでなく、黄色靱帯など他の脊柱靱帯の骨化を伴うこともあります。

重要なのは、画像上で後縦靱帯の骨化が認められても、必ずしも症状があるとは限らないということです。

骨化の大きさや脊柱管の狭窄の程度だけではなく、脊髄や神経根への圧迫、脊椎の配列、症状や神経学的所見などを総合して評価することが重要です。

後縦靱帯骨化症の発生機序

後縦靱帯骨化症がなぜ生じるのかについては、現在も完全には解明されていません。

遺伝的要因に加えて、年齢、性別、生活習慣、代謝・内分泌学的因子、脊椎にかかる機械的ストレスなど、複数の要因が関与すると考えられています。

そのため、単純な「加齢による病気」と考えることは適切ではありません。

また、後縦靱帯骨化症では、複数の椎体レベルに連続して骨化する場合もあれば、骨化が分節状にみられる場合もあります。

骨化の形態や広がりには個人差が大きく、時間の経過とともに骨化が増大することもあります。

後縦靱帯骨化症はどこに起こりますか?

後縦靱帯骨化症は脊椎のさまざまな部位に生じます。

頚椎後縦靱帯骨化症

最もよくみられるタイプです。

頚椎の脊柱管内で骨化が進行すると、頚髄を圧迫して頚髄症を生じることがあります。

手指の細かい動作がしにくい、手足がしびれる、歩行が不安定になるなどの症状が代表的です。

胸椎後縦靱帯骨化症

胸椎では脊柱管のもともとの余裕が少ないことなどから、骨化による脊髄圧迫が問題となることがあります。

下肢のしびれや脱力、歩行障害など、胸髄症による症状が中心となります。

胸椎OPLLでは、骨化の形態や脊髄圧迫の程度を慎重に評価する必要があります。

後縦靱帯骨化症と黄色靱帯骨化症の違い

後縦靱帯骨化症(OPLL)と黄色靱帯骨化症(ossification of the ligamentum flavum:OLF)は、いずれも脊椎周囲の靱帯が骨化する脊柱靱帯骨化症の一つです。

ただし、骨化する靱帯の位置が異なります。

後縦靱帯骨化症(OPLL)

後縦靱帯は、脊椎の椎体後面に沿って走り、脊髄の前方に位置しています。

そのため、後縦靱帯が骨化して大きくなると、脊髄を前方から圧迫することがあります。

特に頚椎では、手足のしびれ、手指の巧緻運動障害、歩行障害などの頚髄症を生じることがあります。

黄色靱帯骨化症(OLF)

黄色靱帯は、脊柱管の後方(背側)に位置し、椎弓と椎弓をつないでいます。

この黄色靱帯が骨化すると、脊柱管の後方から脊髄や神経組織を圧迫することがあります。

黄色靱帯骨化症は胸椎下部に多くみられることが特徴で、下肢のしびれ、筋力低下、歩行障害などの胸髄症状を生じることがあります。

OPLLとOLFは同時にみられることがあります

OPLLとOLFは、それぞれ別の靱帯が骨化する病態ですが、同じ患者さんに両方の骨化が認められることがあります。

特に胸椎では、後縦靱帯と黄色靱帯の両方が骨化することで、脊髄が前後から圧迫される場合があります。

このような場合には、単一の骨化病変だけを評価するのではなく、脊柱全体を確認し、脊髄がどの部位でどの程度圧迫されているかを評価することが重要です。

CTとMRIによる評価

OPLLとOLFのいずれにおいても、CTは骨化の位置や形態を詳しく評価するために有用です。

一方、MRIでは脊髄や神経組織がどの程度圧迫されているか、また脊髄内に信号変化が生じているかなどを評価します。

したがって、両者を区別するだけでなく、

「どの靱帯が骨化しているのか」
「どの部位で脊髄が圧迫されているのか」
「脊髄に障害が生じているのか」

を総合的に評価することが重要です。

治療にも違いがあります

OPLLとOLFはいずれも、画像上骨化があるだけで直ちに手術が必要になるわけではありません。

神経症状がなく、脊髄への圧迫が軽度である場合には、症状や神経学的所見を確認しながら経過観察を行うことがあります。

一方、脊髄症が進行している場合には、脊髄の除圧を目的とした手術が検討されます。

特に胸椎OLFでは、骨化による脊髄圧迫が強い場合や神経症状が進行している場合に手術が検討されます。術式については、骨化の位置や範囲、脊髄圧迫の程度、脊椎の安定性などを考慮して決定します。

このように、OPLLとOLFは共通する部分がある一方、骨化する靱帯の位置や好発部位、脊髄への圧迫方向、症状の現れ方には違いがあります。

後縦靱帯骨化症の症状

後縦靱帯骨化症があっても、症状がない場合があります。

症状は、骨化によって脊髄や神経根がどの程度圧迫されているか、また圧迫されている部位によって異なります。

手足のしびれ

頚髄が圧迫されると、手や腕だけでなく、足にも「ジンジンする」「感覚が鈍い」といったしびれが生じることがあります。

手指の細かい動作がしにくい

頚髄症では、手指の巧緻運動障害が重要な症状の一つです。

  • 箸が使いにくい
  • ボタンを留めにくい
  • 字が書きにくい
  • ペットボトルのふたが開けにくい

など、以前は問題なくできていた細かい動作がしにくくなることがあります。

歩行障害・ふらつき

脊髄への圧迫が進行すると、足がもつれる、階段の昇り降りが不安定になる、歩幅が小さくなるなど、歩行に変化が現れることがあります。

「転びやすくなった」「足が思うように動かない」と感じる場合には注意が必要です。

手足の脱力

脊髄や神経根への圧迫が強くなると、手や足に力が入りにくくなることがあります。

排尿・排便機能の障害

脊髄への圧迫が高度になると、排尿・排便機能に影響することがあります。

このような症状が新たに出現した場合には、早急な診察が必要です。

後縦靱帯骨化症の診断

診断では、症状や神経学的所見を確認したうえで、X線、CT、MRIなどの画像検査を組み合わせて評価します。

X線検査

X線では、後縦靱帯の骨化の有無や範囲、頚椎の配列などを評価します。

立位での撮影では、実際の姿勢での脊椎の配列を確認することができます。

ただし、X線だけでは骨化の詳細な形態や脊髄への圧迫状態を十分に評価できないことがあります。

CT検査

CTは後縦靱帯骨化症の評価に非常に重要な検査です。

CTでは、骨化した後縦靱帯の形態、厚さ、連続性、骨化の範囲などを詳細に確認できます。

また、脊柱管に対して骨化がどの程度占めているかを評価するうえでも有用です。

手術を検討する場合には、骨化の形態を把握するためにCTが重要な情報となります。

MRI検査

MRIでは、脊髄がどの程度圧迫されているかを評価できます。

また、脊髄内の信号変化を確認することで、慢性的な脊髄圧迫による脊髄障害の程度を評価する手がかりとなります。

したがって、CTとMRIはそれぞれ役割が異なります。

CTで「骨化の形態」を、MRIで「脊髄や神経への影響」を評価するという考え方が重要です。

後縦靱帯骨化症の自然経過

後縦靱帯骨化症は、骨化が時間とともに増大することがありますが、骨化があるからといって必ず脊髄症を発症するわけではありません。

無症状のまま経過する方も多く、症状がない場合には、神経学的所見や画像所見を確認しながら経過を観察することがあります。

一方、脊柱管が狭くなっている場合には、将来的に脊髄症を発症する可能性があります。

そのため、画像上の骨化だけでなく、

  • 手足のしびれ
  • 手指の巧緻運動障害
  • 歩行障害
  • 筋力低下

などの神経症状が出現していないかを確認することが重要です。

後縦靱帯骨化症では外傷に注意が必要です

脊柱管が狭くなっている後縦靱帯骨化症では、転倒や交通事故などの外傷をきっかけに、脊髄症状が急激に悪化したり、脊髄損傷をきたしたりすることがあります。

特に、後縦靱帯の骨化によって脊柱管の余裕が少なくなっている場合には、通常であれば問題にならないような比較的軽微な外傷でも、脊髄が強く圧迫され、四肢の麻痺などの重篤な神経障害につながることがあります。

そのため、後縦靱帯骨化症と診断されている方では、転倒や交通事故などの外傷後に、

  • 手足のしびれが新たに出現した
  • しびれが急に悪化した
  • 手や足に力が入らなくなった
  • 手足が動かしにくくなった
  • 歩けなくなった、または歩きにくくなった

といった症状がみられた場合には、脊髄損傷の可能性も考え、速やかに医療機関を受診する必要があります。

後縦靱帯骨化症の治療

治療は、症状の有無、神経学的所見、脊髄の圧迫状態、骨化の範囲や形態、脊椎の配列などを総合して決定します。

経過観察

画像上で後縦靱帯骨化が認められていても、神経症状がない場合には、必ずしも手術を行う必要はありません。

症状や神経学的所見を確認しながら、必要に応じて画像検査を行い、経過を観察します。

保存療法

痛みやしびれなどの症状に対して、薬物療法などの対症療法を行うことがあります。

ただし、保存療法によってすでに生じている脊髄の圧迫そのものを解除することはできません。

そのため、神経症状が進行している場合には、保存療法だけで経過を見るのではなく、手術の必要性を検討します。

後縦靱帯骨化症の手術療法

脊髄症などの神経障害が明らかな場合や、症状が進行している場合には、手術による脊髄の除圧を検討します。

手術には大きく分けて、前方から脊髄を除圧する方法と、後方から脊柱管を拡大して脊髄を除圧する方法があります。

前方除圧固定術

頚椎の前方から骨化した後縦靱帯を含めて脊髄の圧迫を解除し、必要に応じて脊椎を固定する方法です。

骨化による脊柱管の占拠が大きい場合や、頚椎の配列などによっては、前方手術が適している場合があります。

一方で、骨化の位置や大きさなどによって手術の難易度が高くなることがあり、術式選択には十分な検討が必要です。

後方除圧術

頚椎の後方から脊柱管を拡大することで、脊髄が後方へ移動する余地を作り、脊髄の圧迫を改善する方法です。

多椎間にわたる骨化などでは、後方除圧が選択肢となります。

後方除圧には椎弓形成術などがあり、脊椎の配列や不安定性などによっては固定術を組み合わせることがあります。

手術方法はどのように決めるのでしょうか?

後縦靱帯骨化症では、「骨化があるからこの手術」と単純に決めることはできません。

骨化の範囲や大きさ、脊柱管に占める割合、頚椎の前弯・後弯などの脊椎アライメント、脊髄の圧迫状態、症状の程度などを総合して術式を選択します。

特に頚椎OPLLでは、骨化の占拠率やK-lineなどの画像所見が術式選択の参考となることがあります。

また、胸椎OPLLでは頚椎とは異なる特徴があり、手術による脊髄障害のリスクも考慮しながら慎重に治療方針を決定します。

当院での診療

当院では、後縦靱帯骨化症に対して、脳神経外科・脊椎脊髄外科の専門的な視点から診療を行います。

手足のしびれ、手指の動かしにくさ、歩行障害、筋力低下などの症状がある場合には、神経学的診察を行い、必要に応じてX線、CT、MRIなどを組み合わせて評価します。

CTでは後縦靱帯骨化の範囲や形態を詳しく確認し、MRIでは脊髄や神経への圧迫状態を評価します。

症状が軽く保存的な経過観察が適切な場合には、定期的に状態を確認します。

手術が必要と判断された場合には、骨化の部位や範囲、脊髄の圧迫状態、脊椎のアライメントなどを総合して治療方針を検討し、必要に応じて専門医療機関と連携して治療を行います。

このような症状でお困りではありませんか?

  • 手や足がしびれる
  • 手指が動かしにくい
  • 箸やボタンなどの細かい動作がしにくくなった
  • ペットボトルのふたが開けにくい
  • 足がもつれる
  • 歩くときにふらつく
  • 転びやすくなった
  • 手や足に力が入りにくい
  • 手足の感覚が鈍くなってきた

特に、これらの症状が徐々に進行している場合には、脊髄が圧迫されている可能性があります。

後縦靱帯骨化症が指摘されている方で神経症状が出現した場合や、転倒などをきっかけに症状が悪化した場合には、早めに専門医の診察を受けることをおすすめします。

よくある質問

後縦靱帯骨化症と診断されたら、手術が必要ですか?

必ずしも手術が必要というわけではありません。

神経症状がなく、日常生活に支障がない場合には、診察や画像検査による経過観察を行うことがあります。

一方、脊髄症状が進行している場合には、手術による脊髄の除圧を検討します。

後縦靱帯骨化症は治りますか?

一度形成された骨化を薬で完全に消失させることは、現在の一般的な治療ではできません。

そのため、治療では骨化そのものをなくすことだけを目的とするのではなく、脊髄や神経への圧迫によって生じる症状を評価し、必要に応じてその圧迫を解除することが重要です。

後縦靱帯骨化症は進行しますか?

骨化が時間とともに増大することはありますが、すべての患者さんで症状が進行するわけではありません。

骨化の範囲だけでなく、脊柱管の狭窄や脊髄への圧迫、神経症状の変化を含めて経過をみることが重要です。

後縦靱帯骨化症があると、転倒に注意した方がよいですか?

はい。

脊柱管が狭くなっている場合、転倒などの外傷によって脊髄症状が悪化する可能性があります。

転倒後に手足のしびれや脱力、歩行障害などが新たに生じた場合には、早急に医療機関を受診してください。

CTとMRIは両方必要ですか?

それぞれ役割が異なるため、必要に応じて両方を行います。

CTでは後縦靱帯骨化の範囲や形態を詳しく評価し、MRIでは脊髄や神経がどの程度圧迫されているか、脊髄内に変化があるかなどを評価します。

手術を検討する場合には、両方の検査結果を総合して治療方針を決定します。

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