「手足のしびれ」や「腰から脚にかけての痛み」は、頚椎や腰椎の病気だけで起こるわけではありません。
脳や脊髄から出た神経は、手足や体のさまざまな場所を通って筋肉や皮膚に分布しています。この末梢神経が圧迫されたり、傷ついたりすることで起こるしびれや痛みを、末梢神経障害といいます。
糖尿病などによって多くの末梢神経が障害される場合もありますが、特定の神経が狭い場所で圧迫される「絞扼性末梢神経障害」もあります。
末梢神経障害は、頚椎・腰椎の病気による神経根症と症状が似ていることがあり、「しびれの原因が脊椎なのか、末梢神経なのか」を見極めることが重要です。
末梢神経障害ではどのような症状が起こりますか?
症状は障害される神経によって異なります。
- 手足のしびれ
- ピリピリ、ジンジンする感覚
- 焼けるような痛み
- 電気が走るような痛み
- 触れただけでも痛いアロディニア
- 感覚が鈍い、触った感じが分かりにくい
- 筋力が低下する
- 手先の細かい動作がしにくい
- 足が上がりにくい、つまずきやすい
- 歩きにくい
特定の神経が障害されている場合には、「どこがしびれているか」「どの動作で症状が強くなるか」が診断の重要な手がかりになります。
末梢神経障害の主な原因
神経の圧迫・絞扼
末梢神経は、骨や靱帯、筋肉などで囲まれた狭い場所を通過するため、その部分で圧迫されることがあります。
代表的なものとして、
- 胸郭出口症候群
- 手根管症候群
- 肘部管症候群
- 上殿皮神経障害
- 中殿皮神経障害
- 外側大腿皮神経障害
- 総腓骨神経障害
- 足根管症候群
などがあります。
これらは、症状によっては頚椎症、頚椎椎間板ヘルニア、腰椎椎間板ヘルニア、腰部脊柱管狭窄症などと間違われることがあります。
糖尿病などによる多発神経障害
糖尿病などによって末梢神経が広範囲に障害されることがあります。
典型的には、足先から左右対称にしびれや感覚低下が現れ、進行すると手にも症状が及ぶことがあります。
その他の原因
ビタミン欠乏、アルコール、薬剤や抗がん剤、自己免疫疾患などが原因となることもあります。
脊椎の病気と末梢神経障害はどう違いますか?
手足のしびれや痛みがある場合、症状の場所だけで原因を判断することはできません。
例えば、手のしびれは頚椎の神経根が圧迫されても、手首で正中神経が圧迫されても起こります。
同様に、足のしびれも腰椎の神経根が圧迫されている場合だけでなく、膝の外側で腓骨神経が圧迫されている場合や、足首で脛骨神経が圧迫されている場合にも起こります。
そのため、症状の分布、筋力、感覚、腱反射、症状を誘発する部位などを詳しく診察し、脊椎・脊髄・末梢神経のどこに問題があるのかを考えることが重要です。
代表的な末梢神経障害
胸郭出口症候群
胸郭出口症候群は、首から腕へ向かう腕神経叢や血管が、首から胸にかけての狭い場所で圧迫されることで、首・肩・腕・手の痛みやしびれなどが起こる病気です。
特に神経が圧迫される「神経原性胸郭出口症候群(nTOS)」が多く、腕を上げる動作や繰り返し腕を使う動作などで症状が悪化することがあります。
頚椎疾患や手の末梢神経障害などでも似た症状が起こるため、診察による鑑別が重要です。
上殿皮神経障害・中殿皮神経障害
殿部の痛みが、必ずしも腰椎から来ているとは限りません。
上殿皮神経は腰部から殿部に分布する細い感覚神経で、腸骨の上を通過する部分で圧迫されると腰痛の原因となることがあります。
また、中殿皮神経は仙骨周囲を走行する感覚神経で、この神経の圧迫によって殿部内側の痛みが起こることがあります。
いずれも腰椎疾患による痛みと似た症状を呈することがあり、痛みの場所や圧痛点、神経ブロックによる症状の変化などが診断の手がかりになります。
上殿皮神経・中殿皮神経の絞扼は、慢性腰痛の中では見逃されやすい原因の一つです。腰痛だけでなく殿部や下肢への「坐骨神経痛様」の痛みを起こすことが報告されています。
外側大腿皮神経障害
外側大腿皮神経は、大腿の前外側の感覚を担当する神経です。
この神経が鼠径部付近で圧迫されると、太ももの前外側にしびれや痛みが起こります。
立っているときや歩いているときに症状が強くなることがあり、腰椎疾患と間違われることがあります。
外側大腿皮神経は感覚神経なので、この病気だけで脚の筋力が低下することはありません。
総腓骨神経障害
総腓骨神経は、膝の外側にある腓骨頭の周囲を通るため、この部分で圧迫されることがあります。
足を組む習慣やきついストッキングなどが原因になることがありますが、明らかな原因がない場合もあります。
すねの外側から足の甲にかけてのしびれや痛みのほか、進行すると足首を上に持ち上げにくくなり、つまずきやすくなることがあります。
腰椎疾患による神経根障害との鑑別が重要で、神経学的診察や必要に応じて神経伝導検査などを行います。
手根管症候群
手首には正中神経が通る「手根管」という狭いトンネルがあります。
ここで正中神経が圧迫されると、親指、人差し指、中指、薬指の親指側にしびれや痛みが起こります。
夜間や朝方に症状が強くなったり、手を使うことで症状が悪化したりすることがあります。
進行すると親指の付け根の筋肉が弱くなり、細かい動作がしにくくなることがあります。
肘部管症候群
肘の内側を通る尺骨神経が圧迫されることで起こります。
小指と薬指の小指側にしびれが起こり、肘を曲げた状態で症状が強くなることがあります。
進行すると手の筋肉がやせ、箸を使うなどの細かい動作が難しくなることがあります。
足根管症候群
足首の内側には、足の裏へ向かう神経が通る「足根管」があります。
ここで後脛骨神経などが圧迫されると、足の裏から足の指にかけてのしびれや痛みが起こります。
腰椎疾患や糖尿病による足のしびれと症状が似ることがあり、鑑別が必要です。画像検査や神経伝導検査で異常がはっきりしない場合もあります。
末梢神経障害の診断
診断では、まず症状の場所や広がり、発症時期、症状が悪化する動作などを確認します。
そのうえで、
- 筋力
- 感覚
- 腱反射
- 神経の走行に沿った圧痛
- Tinel様徴候
- 症状を誘発する姿勢や動作
などを詳しく診察します。
MRI・CT
MRIやCTは、頚椎・腰椎などに神経を圧迫する病変がないかを確認するために重要です。
ただし、末梢神経の絞扼性障害ではMRIやCTだけでは異常が見つからないこともあります。
例えば、上殿皮神経障害や外側大腿皮神経障害などでは、通常の画像検査では診断が難しいことがあります。
神経伝導検査・筋電図
神経に電気刺激を加えて、神経を伝わる信号の速さや強さを調べる検査です。
末梢神経障害の有無や障害部位を評価するだけでなく、末梢神経障害と神経根障害、腕神経叢障害などを区別するためにも役立ちます。
ただし、すべての末梢神経障害で異常が検出されるわけではありません。検査結果だけで診断するのではなく、症状や診察所見と合わせて判断することが重要です。
末梢神経障害の治療
治療は、原因や障害されている神経によって異なります。
保存的治療
神経を圧迫している姿勢や動作を避けたり、装具や理学療法を行ったりします。
神経障害性疼痛やしびれに対して、薬物療法を行うこともあります。
神経ブロック
上殿皮神経、外側大腿皮神経などでは、症状の原因と考えられる神経に局所麻酔薬などを注射する神経ブロックが診断や治療に役立つことがあります。
特に画像検査では異常が見つからない場合でも、症状の再現や神経ブロックによる改善が診断の手がかりになることがあります。
手術
神経の圧迫が明らかで、症状が強い場合や保存的治療で改善しない場合には、神経の圧迫を解除する手術を検討することがあります。
手根管症候群、肘部管症候群、総腓骨神経障害、足根管症候群、殿皮神経障害などでは、神経を圧迫している靱帯や筋膜を開放する神経剥離術・除圧術などが行われます。
当院での診療
手足のしびれや痛み、腰痛、殿部痛の原因が、必ずしも脊椎の病気とは限りません。
当院では、脊椎・脊髄疾患だけでなく、末梢神経の障害も鑑別に入れて診察します。
特に、
- 頚椎疾患なのか胸郭出口症候群なのか
- 腰椎疾患なのか殿皮神経障害なのか
- 腰椎疾患なのか外側大腿皮神経障害なのか
- 腰椎の神経根障害なのか総腓骨神経障害なのか
- 腰椎疾患や糖尿病によるしびれなのか足根管症候群なのか
といった「脊椎の病気と末梢神経障害の鑑別」を大切にしています。
必要に応じてMRI・CTなどの画像検査を行い、さらに神経伝導検査や筋電図などが必要と判断した場合には、適切な専門医療機関と連携して診断・治療を進めます。
末梢神経の絞扼が疑われる場合には、症状の部位や神経の走行を確認し、保存的治療や神経ブロックなどを検討します。
このような症状でお困りではありませんか?
- 手足のしびれが続いている
- 手や足の一部分だけがしびれる
- 手のしびれが頚椎の病気なのか手根管症候群なのか分からない
- 小指・薬指がしびれる
- 太ももの前外側がしびれる
- 足の甲がしびれる
- 足の裏がしびれる
- 足首が上げにくく、つまずきやすい
- 腰痛や殿部痛があるが、腰椎MRIでは大きな異常がない
- 腸骨の上を押すと強く痛む
- 殿部の一部分に強い痛みがある
- 腕を上げると手や腕のしびれが強くなる
- 神経障害性疼痛やアロディニアがある
気になる症状がありましたら、お気軽にご相談ください。
よくある質問
- 手足のしびれがある場合、まずMRIを撮れば原因が分かりますか?
-
MRIは重要な検査ですが、MRIだけですべての原因が分かるわけではありません。
頚椎や腰椎の病気だけでなく、手根管症候群、肘部管症候群、総腓骨神経障害、足根管症候群などの末梢神経障害では、通常のMRIでは異常が分からないことがあります。
そのため、症状の分布や神経学的診察を組み合わせて原因を考えることが重要です。
- 腰のMRIで異常があるのに、痛みの原因が分かりません。
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腰椎MRIで椎間板ヘルニアや脊柱管狭窄などが見つかっても、それが必ずしも症状の原因とは限りません。
上殿皮神経・中殿皮神経などの末梢神経障害でも、腰痛や下肢痛が起こることがあります。
画像所見と症状・診察所見が一致しているかを確認することが大切です。
- 外側大腿皮神経障害では、足の力が弱くなりますか?
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外側大腿皮神経は感覚を担当する神経なので、外側大腿皮神経障害だけで脚の筋力が低下することはありません。
太ももの前外側のしびれや痛みが主な症状です。
- 足がしびれます。腰の病気と足根管症候群はどう見分けますか?
-
しびれの範囲や診察所見が重要です。
足根管症候群では、主に足の裏から足指にかけて症状が現れます。一方、腰椎の神経根障害では、神経根の分布に沿った下肢症状がみられることがあります。
ただし、両方が同時に存在することもあるため、症状だけで判断せず、診察や必要な検査を組み合わせて評価します。
