脳腫瘍

脳腫瘍とは、脳やその周囲の組織に発生する腫瘍の総称です。

脳腫瘍には、脳そのものから発生する原発性脳腫瘍と、肺がんや乳がんなど他の臓器にできたがんが脳へ転移して生じる転移性脳腫瘍があります。

原発性脳腫瘍には、髄膜腫、神経鞘腫、下垂体腺腫、神経膠腫などさまざまな種類があります。同じ脳腫瘍でも、発生する場所や腫瘍の種類、増殖の速さ、周囲の脳への浸潤の程度によって、症状や治療方針は大きく異なります。

近年の脳腫瘍診療では、MRIなどの画像所見だけでなく、手術などで採取した腫瘍組織の病理診断や遺伝子・分子情報を組み合わせて診断することが重要になっています。WHO脳腫瘍分類第5版(2021年)では、分子情報を診断に取り入れた「統合診断」の考え方がさらに重視されています。

脳腫瘍の種類

脳腫瘍には非常に多くの種類があります。

髄膜腫

髄膜腫は、脳を覆う髄膜から発生する腫瘍です。

多くはゆっくりと増大し、画像検査で偶然発見されることもあります。一方、腫瘍が大きくなったり、脳や神経を圧迫したりすると、頭痛、けいれん、手足の麻痺、視覚障害などの症状を生じることがあります。

腫瘍の大きさや発生部位、増大傾向、症状の有無などを考慮して、定期的な画像検査による経過観察または治療を検討します。

神経鞘腫

神経鞘腫は、神経を取り囲むシュワン細胞から発生する腫瘍です。

代表的なものに前庭神経鞘腫(いわゆる聴神経腫瘍)があります。

前庭神経鞘腫では、片側の聴力低下、耳鳴り、めまいなどがみられることがあります。腫瘍が大きくなると、顔面神経や脳幹など周囲の組織を圧迫することがあります。

治療には、経過観察、手術、放射線治療などがあり、腫瘍の大きさや増大速度、症状、年齢などを考慮して治療方針を決定します。

下垂体腫瘍

下垂体に発生する腫瘍では、ホルモンを過剰に産生するタイプと、ホルモンを産生しないタイプがあります。

腫瘍が大きくなると、視神経を圧迫して視野障害を起こすことがあります。

また、ホルモンの異常によって、月経異常、乳汁分泌、体重変化、血圧や代謝の異常など、さまざまな症状が現れることがあります。

下垂体腫瘍では、MRIによる画像評価だけでなく、内分泌機能の検査や視野検査などを組み合わせて評価します。

神経膠腫

神経膠腫(グリオーマ)は、脳の神経細胞を支えるグリア細胞系の細胞から発生する原発性脳腫瘍です。

神経膠腫にはさまざまな種類があり、腫瘍の性質や悪性度も異なります。

現在のWHO脳腫瘍分類では、従来の病理組織像だけではなく、IDH遺伝子変異、1p/19q共欠失、ATRX、TP53、MGMTプロモーターのメチル化などの分子情報が診断や治療方針、予後の評価に重要となる場合があります。

特に成人のびまん性神経膠腫では、組織学的所見と分子情報を組み合わせた診断が重要です。

神経膠腫の治療では、手術による最大限安全な腫瘍摘出を基本として、病理診断や分子診断、年齢、全身状態などを踏まえて放射線治療や薬物療法を組み合わせます。

膠芽腫

膠芽腫(glioblastoma)は、成人に発生する代表的な悪性神経膠腫の一つで、進行が速く、治療が難しい腫瘍です。

現在のWHO脳腫瘍分類では、単に顕微鏡で見た腫瘍の形態だけではなく、IDH遺伝子変異などの分子情報を含めて診断することが重要になっています。そのため、MRIなどの画像所見だけで診断を確定することはできず、手術または生検によって得られた腫瘍組織を用いた病理診断・分子診断が重要です。

治療では、腫瘍の位置や大きさ、周囲の重要な脳機能との関係、患者さんの年齢や全身状態などを総合的に判断します。

手術が可能な場合には、正常な脳機能をできるだけ温存しながら、腫瘍を最大限安全に摘出することが基本となります。日本脳腫瘍学会の2024年版ガイドラインでも、術後の全身状態が良好な成人では、摘出度が高いほど無増悪生存期間および全生存期間の改善がみられるとされています。

その後、一般的には放射線治療とテモゾロミドによる化学療法を組み合わせたStuppプロトコールが標準的な治療として行われます。70歳以下の成人では、術後放射線治療と放射線治療中および終了後のテモゾロミド投与が、日本脳腫瘍学会の2024年版ガイドラインで推奨されています。

ただし、すべての患者さんに同じ治療が適しているわけではありません。腫瘍が脳の重要な機能領域に存在する場合や、全摘出によって重大な神経障害を生じる可能性が高い場合には、安全性を優先して部分摘出や生検による組織診断にとどめることがあります。

また近年では、腫瘍の分子特性や免疫環境に基づいた新しい薬物療法、交流電場腫瘍治療システム(TTFields)、免疫チェックポイント阻害薬などを組み合わせた治療についても研究が進んでいます。さらに、十分な腫瘍摘出が困難な症例に対して、生検による組織・分子診断を行ったうえで薬物療法や新規治療を組み合わせる治療戦略も研究されています。

ただし、これらの新しい治療の多くは、現時点ではすべての患者さんに適用される標準治療として確立しているわけではありません。腫瘍の遺伝子・分子情報、年齢、全身状態、腫瘍の位置や広がりなどを踏まえて、標準治療と新しい治療選択肢を組み合わせて検討することが重要です。

膠芽腫は再発することも多く、再発した場合には、再手術、放射線治療、薬物療法などを患者さんの状態に応じて検討します。再発例に対しても、新しい薬剤や治療法の研究が続けられています。

転移性脳腫瘍

転移性脳腫瘍は、肺がん、乳がん、大腸がん、腎がん、悪性黒色腫など、他の臓器に発生したがんが脳へ転移したものです。

脳転移は、頭痛、けいれん、手足の麻痺、しびれ、言語障害、視野障害などの症状をきっかけに発見されることがあります。一方で、原発がんの検査や定期的な画像検査の際に、症状がない状態で見つかることもあります。

脳転移の治療では、脳転移の個数、大きさ、発生部位、脳浮腫の程度、原発がんの種類や治療状況、全身状態などを総合的に評価することが重要です。

手術

脳転移が比較的大きく、周囲の脳を強く圧迫している場合や、症状の原因となっている場合には、手術による腫瘍摘出が検討されます。

特に、単発または少数の脳転移で、全身状態が良好な患者さんでは、腫瘍を摘出することで脳圧を軽減し、症状を改善できる場合があります。

また、診断が確定していない場合には、摘出した組織を病理検査することで、原発がんとの関連や腫瘍の性質を確認できることがあります。

定位放射線治療

比較的小さな脳転移に対しては、定位放射線治療(stereotactic radiosurgery:SRS)が重要な治療選択肢となります。

定位放射線治療では、病変に放射線を集中的に照射し、周囲の正常な脳への影響をできるだけ抑えながら治療します。

代表的な治療方法としてガンマナイフがあります。

ガンマナイフは、脳内の病変に対して多数の方向から放射線を集中的に照射する定位放射線治療装置で、脳転移の治療に広く用いられています。

脳転移の個数が少ない場合だけでなく、近年では複数個の脳転移に対しても、患者さんの状態やそれぞれの病変の大きさ・位置などを考慮して定位放射線治療が検討されることがあります。

ただし、すべての脳転移にガンマナイフが適しているわけではありません。病変の大きさ、個数、位置、脳浮腫、全身状態などを総合的に判断し、手術や他の放射線治療との使い分けを行います。

全脳照射

脳内に多数の転移がある場合などには、全脳照射(whole-brain radiotherapy:WBRT)が治療選択肢となることがあります。

一方で、認知機能への影響なども考慮する必要があるため、近年では患者さんの予後や全身状態、脳転移の数や大きさなどを踏まえて、定位放射線治療や薬物療法などを組み合わせた治療が検討されます。

薬物療法

近年、がん薬物療法は大きく進歩しており、原発がんの種類や遺伝子・分子特性によっては、分子標的治療薬や免疫チェックポイント阻害薬などが脳転移に対して効果を示す場合があります。

そのため、脳転移そのものだけを見るのではなく、原発がんの治療状況や遺伝子・分子情報を含めて、全身治療と局所治療を組み合わせることが重要です。

このように、転移性脳腫瘍の治療は「手術か放射線か」という単純な選択ではなく、手術、ガンマナイフなどの定位放射線治療、全脳照射、薬物療法を患者さんごとに組み合わせる集学的治療が基本となります。

中枢神経系原発悪性リンパ腫

中枢神経系原発悪性リンパ腫(primary central nervous system lymphoma:PCNSL)は、脳、脊髄、髄膜、眼などの中枢神経系に発生する悪性リンパ腫です。

一般的な脳腫瘍とは治療方針が異なり、手術による腫瘍の全摘出を目的とするのではなく、組織診断を行ったうえで薬物療法を中心とした治療が行われます。

脳腫瘍の症状

脳腫瘍の症状は、腫瘍の種類だけでなく、腫瘍が脳のどこに発生したか、どの程度の大きさになっているか、脳を圧迫しているかによって異なります。

頭痛

脳腫瘍では頭痛がみられることがあります。

特に、これまでに経験したことのない頭痛、徐々に悪化する頭痛、朝方に強い頭痛、吐き気や嘔吐を伴う頭痛などでは、脳腫瘍を含めた二次性頭痛を考慮する必要があります。

ただし、頭痛の大部分は脳腫瘍が原因ではありません。

片頭痛や緊張型頭痛などの一次性頭痛も非常に多いため、頭痛の性状、発症経過、神経症状の有無などを総合して評価します。

けいれん発作

脳腫瘍が大脳皮質を刺激すると、けいれん発作(てんかん発作)を起こすことがあります。

初めてのけいれん発作や意識を失う発作があった場合には、脳腫瘍を含めた原因検索が必要です。

手足の麻痺・しびれ

運動野や感覚野などの脳機能領域に腫瘍が生じたり、腫瘍による圧迫や脳浮腫が生じたりすると、手足の麻痺やしびれが現れることがあります。

言語障害

言語機能を担う脳領域に腫瘍が生じると、

  • 言葉が出にくい
  • 人の話が理解しにくい
  • 読み書きが難しくなる

などの症状が現れることがあります。

視覚・視野の異常

視神経、視交叉、視覚野などに腫瘍が影響すると、視力低下や視野障害が生じることがあります。

特に下垂体周辺の腫瘍では、両眼の外側が見えにくくなる両耳側半盲が特徴的な所見となることがあります。

認知機能・性格の変化

前頭葉などに腫瘍が生じると、記憶力や注意力、判断力、性格・行動の変化などがみられることがあります。

脳腫瘍の検査

脳腫瘍の診断では、症状や神経学的診察に加えて、MRIやCTなどの画像検査を行います。

MRI

MRIは、脳腫瘍の位置、大きさ、周囲の脳組織への影響などを詳しく評価するために重要な検査です。

必要に応じて造影剤を使用した造影MRIを行い、腫瘍の性状や血液脳関門の破綻、周囲組織との関係などを評価します。

ただし、MRI画像だけで腫瘍の種類を確定できるとは限りません。

CT

CTは、腫瘍による脳浮腫や出血、石灰化、骨の変化などを評価する際に役立ちます。

急な神経症状や頭痛がある場合には、脳出血など緊急性の高い病態を迅速に確認するためにも重要です。

病理診断・分子診断

脳腫瘍の種類を確定するためには、手術や生検によって採取した腫瘍組織を病理学的に評価することがあります。

現在のWHO第5版では、病理組織学的所見に加えて、遺伝子変異や染色体異常などの分子情報を組み合わせた統合診断が重要になっています。腫瘍によっては、分子情報が診断そのものを決定する重要な要素となります。

脳腫瘍の治療

脳腫瘍の治療は、腫瘍の種類、悪性度、発生部位、大きさ、増大速度、患者さんの年齢や全身状態などを総合して決定します。

経過観察

すべての脳腫瘍がすぐに治療を必要とするわけではありません。

例えば、症状がなく、画像上も増大が緩やかな腫瘍では、定期的なMRIなどによる経過観察が適切な場合があります。

経過観察では、腫瘍の大きさや症状の変化を確認し、増大傾向がみられた場合などに治療を検討します。

手術

手術では、腫瘍を可能な限り摘出すると同時に、正常な脳機能をできるだけ温存することが重要です。

腫瘍の種類によっては、手術による摘出が治療の中心となります。

一方、脳の深部や重要な機能を担う領域にある腫瘍では、全摘出による神経障害のリスクが高くなることがあります。

その場合には、「最大限安全な摘出(maximal safe resection)」という考え方に基づき、腫瘍の制御と神経機能温存のバランスを考えて手術範囲を決定します。

また、腫瘍の種類によっては、診断を確定するための生検のみを行うこともあります。

放射線治療

脳腫瘍の種類や治療目的に応じて、通常の分割放射線治療や定位放射線治療などが選択されます。

定位放射線治療は、比較的小さな病変に対して周囲の正常脳への線量を抑えながら高い精度で放射線を照射する治療です。

脳転移や一部の良性脳腫瘍などで用いられるほか、腫瘍の種類や治療状況によって適応が検討されます。

薬物療法

神経膠腫、PCNSL、転移性脳腫瘍などでは、腫瘍の種類や分子特性に応じて薬物療法が行われます。

化学療法だけでなく、分子標的治療薬や免疫療法などが治療選択肢となる腫瘍もあります。

転移性脳腫瘍では、原発がんの種類や遺伝子・分子特性によって、脳転移に対する薬物療法の適応が検討されます。

脳腫瘍の治療は「腫瘍の種類」によって異なります

脳腫瘍では、「良性だから治療しなくてよい」「悪性だから必ず手術をする」という単純な判断はできません。

例えば、良性とされる腫瘍であっても、脳幹や視神経など重要な部位を圧迫していれば治療が必要になることがあります。

一方で、悪性腫瘍であっても、腫瘍の種類や発生部位、患者さんの状態によって治療方法は異なります。

また、現在の脳腫瘍診療では、腫瘍の組織像だけでなく、分子診断を含めた統合診断が治療方針を決めるうえで重要になっています。

当院での診療

当院では、頭痛、けいれん、しびれ、麻痺、視覚障害、言語障害などの症状に対して診察を行い、必要に応じてMRI・CTなどの画像検査を行います。

画像検査で脳腫瘍が疑われた場合には、腫瘍の部位や大きさ、周囲の脳への影響などを評価したうえで、必要に応じて脳腫瘍を専門とする医療機関へ紹介します。

脳腫瘍の確定診断には、病理診断や分子診断が必要となる場合があり、手術や生検による組織採取が必要となることがあります。

当院では、必要な精密検査や治療を行える専門施設と連携し、患者さんの病状に応じて適切な医療機関をご案内します。

また、脳腫瘍の治療後についても、専門施設と連携しながら画像検査などによる経過観察を行います。

よくある質問

頭痛があると脳腫瘍が心配です。脳腫瘍の可能性はありますか?

頭痛は脳腫瘍でみられる症状の一つですが、頭痛の多くは脳腫瘍以外の原因によるものです。

一方、これまでに経験したことのない頭痛、徐々に悪化する頭痛、神経症状を伴う頭痛、けいれんを伴う頭痛などでは、脳腫瘍を含めた二次性頭痛を考慮して画像検査を行うことがあります。

脳腫瘍はMRIでわかりますか?

MRIは脳腫瘍を評価するために非常に重要な検査です。

腫瘍の位置や大きさ、周囲の脳への影響などを詳しく確認できます。

ただし、MRIだけで腫瘍の種類を確定できない場合もあり、最終的な診断には病理検査や分子診断が必要となることがあります。

脳腫瘍は良性なら放置しても大丈夫ですか?

必ずしもそうとは限りません。

良性の腫瘍でも、大きくなることで脳や神経を圧迫し、症状を引き起こすことがあります。

一方で、症状がなく、増大が緩やかな腫瘍では、定期的なMRIによる経過観察が選択されることもあります。

脳腫瘍は必ず手術が必要ですか?

必ずしも手術が必要とは限りません。

腫瘍の種類、位置、大きさ、増大傾向、症状などによって、経過観察、手術、放射線治療、薬物療法などから適切な方法を選択します。

脳腫瘍は遺伝しますか?

多くの脳腫瘍は遺伝性ではありません。

ただし、一部の脳腫瘍では遺伝性疾患との関連が知られています。家族歴や他の特徴から遺伝性疾患が疑われる場合には、専門医による評価が必要となります。

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