頚椎椎間板ヘルニアとは、首の骨である頚椎の間にある「椎間板」の一部が後方へ突出し、神経根や脊髄を圧迫することで、首や肩、腕、手などに痛みやしびれ、筋力低下などの症状を引き起こす病気です。
椎間板は、頚椎にかかる衝撃を吸収するクッションのような役割をしています。椎間板の中央には髄核、その周囲には線維輪があります。
椎間板の変性や線維輪の損傷などによって髄核などが後方へ突出すると、脊柱管内や椎間孔にある神経組織を圧迫することがあります。
圧迫される神経によって症状は異なり、神経根が圧迫される「頚椎症性神経根症」と、脊髄が圧迫される「頚椎症性脊髄症」の両方が起こる可能性があります。
頚椎椎間板ヘルニアの原因
頚椎椎間板ヘルニアは、加齢による椎間板の変性だけでなく、スポーツや外傷など、頚椎に加わる負荷によっても生じることがあります。
椎間板は、頚椎にかかる衝撃を吸収するクッションのような役割をしています。椎間板の外側を覆う線維輪に亀裂が生じたり、内部の髄核が後方へ移動したりすることで、神経根や脊髄を圧迫することがあります。
加齢による変化
椎間板は年齢とともに水分量が減少し、弾力性が低下していきます。こうした変性によって線維輪が弱くなると、椎間板が膨隆したり、内部の髄核が突出したりして、神経を圧迫することがあります。
スポーツや外傷
頚椎椎間板ヘルニアは、若い方にも起こる疾患です。
特に、ラグビー、アメリカンフットボール、レスリング、柔道などのコンタクトスポーツでは、衝突や転倒などによって頚椎に強い力が加わるため、頚椎椎間板ヘルニアが生じることがあります。
また、コンタクトスポーツに限らず、頚椎を繰り返し大きく動かしたり、強い負荷が加わったりするスポーツでは、椎間板に負担がかかる可能性があります。
明らかな外傷をきっかけとして発症する場合だけでなく、日常的な頚椎への負荷が椎間板の変性に影響し、その後ヘルニアが生じる場合もあります。
このため、「頚椎椎間板ヘルニアは高齢者の病気」というわけではなく、若年者でも発症する可能性があります。
ただし、スポーツをしているからといって必ず頚椎椎間板ヘルニアになるわけではなく、発症には椎間板の状態や頚椎の形態、外傷など、複数の要因が関係しています。
また、MRIで椎間板の突出が認められても、必ずしも症状を引き起こしているとは限りません。
画像所見と症状、神経学的所見が一致しているかを確認することが重要です。
どのような症状が起こりますか?
症状は、ヘルニアがどの神経を圧迫しているかによって異なります。
首・肩の痛み
首の痛みや肩の痛みが生じることがあります。
首を動かした際に痛みが強くなったり、肩から肩甲骨周囲に痛みを感じたりすることもあります。
腕や手の痛み・しびれ
神経根が圧迫されると、首から肩、腕、手にかけて、電気が走るような痛みやしびれが生じることがあります。
症状が片側に現れることも多く、圧迫されている神経根によって、しびれや痛みを感じる場所が異なります。
手や腕に力が入りにくい
神経根の圧迫が強くなると、特定の筋肉に力が入りにくくなることがあります。
例えば、
- ペットボトルのふたが開けにくい
- 物を持つと手から落としてしまう
- 腕を上げにくい
- 手に力が入りにくい
などの症状がみられることがあります。
手が使いにくい・歩きにくい
ヘルニアが脊髄を圧迫すると、手指の細かな動作がしにくくなったり、歩行が不安定になったりすることがあります。
- 箸を使いにくい
- ボタンをかけにくい
- 字を書きにくい
- 足がもつれる
- 歩くとふらつく
- 転びやすくなった
などの症状がある場合には、脊髄の圧迫による症状である可能性があります。
頚椎椎間板ヘルニアによる神経根症
椎間板ヘルニアによって神経根が圧迫されると、頚椎椎間板ヘルニアによる神経根症を生じることがあります。
神経根ごとに担当する筋肉や感覚領域が異なるため、しびれの場所や筋力低下の部位から、どの神経根が障害されているかを推定します。
神経根症では、強い腕の痛みやしびれがみられることがありますが、時間の経過とともに自然に改善するケースもあります。
そのため、筋力低下などの進行性神経障害がない場合には、まず保存療法を行いながら経過をみることが一般的です。
頚椎椎間板ヘルニアによる脊髄症
ヘルニアが脊髄を圧迫すると、脊髄症を生じることがあります。
脊髄症では、神経根症のような腕の痛みやしびれだけではなく、手指の巧緻運動障害や歩行障害など、より広い範囲の神経症状が現れることがあります。
特に、
「手がしびれる」だけではなく、「手が使いにくくなった」「歩きにくくなった」
という変化がある場合には、脊髄の圧迫を疑う必要があります。
頚椎椎間板ヘルニアの診断
診断では、症状の経過を確認し、神経学的診察を行ったうえで、必要に応じてX線、CT、MRIなどの画像検査を行います。
神経学的診察
筋力、感覚、腱反射などを確認し、どの神経根が障害されているのか、あるいは脊髄の障害があるのかを評価します。
手指の細かな動作や歩行状態も確認します。
X線検査
X線では、頚椎の配列や椎間板腔の狭小化、骨棘形成などを確認します。
必要に応じて、首を前後に動かして撮影する動態X線検査を行い、頚椎の不安定性などを評価することもあります。
CT検査
CTは、頚椎の骨の状態を詳しく評価するために有用です。
骨棘形成や椎間関節の変性、骨性の脊柱管狭窄などを確認することができます。
また、MRIでは評価しにくい骨性病変を詳しく確認する際にも役立ちます。
MRI検査
MRIは、頚椎椎間板ヘルニアの診断において重要な検査です。
椎間板の突出や神経根・脊髄の圧迫状態を確認することができます。
また、脊髄内の信号変化が認められる場合には、脊髄障害の評価にも役立ちます。
ただし、MRIで椎間板ヘルニアが認められても、それだけで症状の原因とは限りません。
画像上のヘルニアと、症状・神経学的所見が一致しているかを総合的に判断することが重要です。
頚椎椎間板ヘルニアの治療
治療は、症状の程度、神経障害の有無や進行、MRIなどの画像所見を総合して決定します。
保存療法
神経症状が軽く、筋力低下などの進行がみられない場合には、まず保存療法を行います。
症状に応じて、
- 鎮痛薬・消炎鎮痛薬
- 神経障害性疼痛に対する薬物療法
- リハビリテーション
- 日常生活上の姿勢や動作に関する指導
などを行います。
頚椎椎間板ヘルニアによる神経根症では、時間の経過とともに症状が自然に改善することもあります。
そのため、症状や神経学的所見を確認しながら、経過をみることが重要です。
手術療法
保存療法を行っても強い症状が改善しない場合や、筋力低下などの神経障害が進行する場合には、手術を検討します。
また、脊髄が圧迫されて脊髄症を生じている場合には、神経症状の程度や進行性、日常生活への影響などを考慮し、手術を含めた治療方針を検討します。
手術の基本的な目的は、神経根や脊髄の圧迫を解除することです。
病変の部位や数、頚椎の配列などに応じて、前方からの除圧・固定術や、病変に応じたその他の除圧術などが選択されます。
どの術式が適しているかは、MRIやCTなどの画像所見だけではなく、症状や神経学的所見を含めて判断します。
頚椎症との違い
「頚椎症」と「頚椎椎間板ヘルニア」は、どちらも神経根や脊髄を圧迫することで症状を起こしますが、病態には違いがあります。
頚椎症では、加齢に伴う椎間板の変性、骨棘形成、椎間関節の変性、靱帯の変化などが複合的に関係します。
一方、頚椎椎間板ヘルニアでは、椎間板の一部が後方へ突出することによって神経根や脊髄を圧迫します。
ただし、両者が完全に別々というわけではなく、椎間板の変性を背景としてヘルニアが生じたり、ヘルニアに加えて骨棘などの変性変化が存在したりすることもあります。
このような症状がある場合はご相談ください
次のような症状がある場合には、頚椎椎間板ヘルニアなどの脊椎・脊髄疾患が原因となっている可能性があります。
- 首から肩、腕にかけて痛みがある
- 腕や手がしびれる
- 特定の指がしびれる
- 手や腕に力が入りにくい
- 物を落とすことが増えた
- 手の細かな動作がしにくくなった
- 箸やボタン操作がしづらい
- 歩くとふらつく
- 足がもつれる
- 転びやすくなった
特に、手の使いにくさや歩行障害が徐々に進行している場合には、脊髄の圧迫がないか早めに確認することが重要です。
当院での診療
当院では、首や肩の痛み、腕や手のしびれ、手に力が入りにくい、手が使いにくい、歩きにくいなどの症状について、脳神経外科・脊椎脊髄外科の専門的な視点から診療しています。
症状の経過を詳しく伺い、神経学的診察を行ったうえで、必要に応じてMRIやCTなどの画像検査を行います。
MRIでは椎間板ヘルニアによる神経根や脊髄の圧迫状態を確認し、CTでは骨棘などの骨性病変を評価します。
症状が軽く、神経障害の進行がない場合には、薬物療法やリハビリテーションなどの保存療法を行いながら経過をみます。
一方、筋力低下が進行している場合や脊髄症状が認められる場合など、手術が必要と判断される場合には、近隣医療機関と連携して治療を行います。
画像だけで診断するのではなく、症状、神経学的所見、MRI・CTなどの画像所見を総合して、一人ひとりに適した治療方針をご提案します。
よくある質問
- 頚椎椎間板ヘルニアは自然に治りますか?
-
神経根症による痛みやしびれは、時間の経過とともに改善することがあります。
ただし、筋力低下が進行している場合や、脊髄症による手の使いにくさ・歩行障害などがある場合には、自然経過だけに任せず、専門的な評価が必要です。
- MRIでヘルニアがあると言われました。手術が必要ですか?
-
MRIでヘルニアが確認されても、必ずしも手術が必要というわけではありません。
症状の程度や経過、筋力低下などの神経障害の有無を総合して治療方針を決定します。
- 手のしびれだけでも頚椎椎間板ヘルニアの可能性がありますか?
-
可能性はあります。
ただし、手のしびれは手根管症候群などの末梢神経障害や、脳・脊髄の病気など、さまざまな原因で起こります。
しびれの場所や範囲、筋力、腱反射などを確認し、原因を見極めることが重要です。
- 頚椎椎間板ヘルニアと頚椎症は同じ病気ですか?
-
同じではありません。
頚椎椎間板ヘルニアは椎間板の突出による神経圧迫が中心であるのに対し、頚椎症では椎間板、骨、椎間関節、靱帯などの加齢変化が複合的に関係します。
ただし、両者が同時に存在することもあります。
- 首の痛みだけでも受診した方がよいですか?
-
首の痛みの多くは筋肉や関節などが原因ですが、腕や手のしびれ、筋力低下、手の使いにくさ、歩行障害などを伴う場合には、神経の圧迫が原因となっている可能性があります。
そのような症状がある場合には、一度専門医の診察を受けることをおすすめします。
