硬膜動静脈瘻

硬膜動静脈瘻(dural arteriovenous fistula:dAVF)は、脳や脊髄を覆う硬膜の中で、動脈と静脈の間に異常な血管の短絡(シャント)が形成される病気です。

正常な血管では、動脈から毛細血管を経て静脈へ血液が流れます。硬膜動静脈瘻では、この毛細血管を介さずに動脈から静脈や静脈洞へ血液が直接流れ込むため、静脈側に過剰な血流や圧力がかかることがあります。

硬膜動静脈瘻は、発生する場所や静脈への血液の流れ方によって、症状や重症度が大きく異なります。

特に、血液が脳の表面を走る脳皮質静脈へ逆流するタイプでは、脳出血や静脈性うっ血、静脈性梗塞などを起こす危険性があり、早期の診断と治療が重要です。

一方で、静脈への流れ方によっては、拍動性耳鳴りなどの比較的軽い症状のみで経過する場合もあります。

硬膜動静脈瘻とは

硬膜動静脈瘻では、硬膜を走行する動脈から静脈洞や静脈へ直接血液が流れ込む異常なシャントが形成されます。

代表的な発生部位として、

  • 海綿静脈洞
  • 横静脈洞・S状静脈洞
  • 上矢状静脈洞
  • テント部
  • 前頭蓋底
  • 頭蓋頚椎移行部周辺

などがあります。

発生部位によって症状や治療方法が異なるため、単に「硬膜動静脈瘻がある」というだけではなく、どこにシャントがあり、どの静脈へ血液が流れているのかを詳しく評価することが重要です。

脳動静脈奇形(AVM)との違い

硬膜動静脈瘻と脳動静脈奇形(AVM)は、どちらも動脈と静脈の間に異常な血流が生じる病気ですが、病態は異なります。

AVMでは、脳実質内にナイダス(異常血管の集まり)が形成されます。

一方、硬膜動静脈瘻では、主に硬膜上に形成された動静脈短絡(シャント)が病変の本体となります。

そのため、治療方針を決める際には、AVMとは異なる血管構造と静脈還流を詳細に評価する必要があります。

硬膜動静脈瘻の症状

症状は、病変の発生部位と静脈への血液の流れ方によって大きく異なります。

拍動性耳鳴り

横静脈洞・S状静脈洞周辺の硬膜動静脈瘻では、心拍に一致して「ザーザー」「ドクンドクン」と聞こえる拍動性耳鳴りがみられることがあります。

特に片側だけに持続する拍動性耳鳴りでは、耳そのものの病気だけでなく、血管性病変の可能性も考慮する必要があります。

眼の症状

硬膜動静脈瘻では、異常な血流が海綿静脈洞や眼静脈など、眼の周囲の静脈へ逆流することによって、眼の症状が現れることがあります。

病変の発生部位だけでなく、静脈還流の方向や脳・眼の静脈への逆流の有無が重要です。例えば、海綿静脈洞部だけでなく、横静脈洞・S状静脈洞部などの硬膜動静脈瘻でも、海綿静脈洞へ血流が逆流することで眼症状を生じる場合があります。

代表的な症状として、

  • 眼球結膜の充血
  • 眼球突出
  • 眼球運動障害
  • 物が二重に見える
  • 視力低下
  • 眼圧上昇

などがあります。

特に、原因のはっきりしない片側の結膜充血や眼球突出、複視などが持続する場合には、眼科疾患だけでなく、硬膜動静脈瘻などの血管性疾患も鑑別する必要があります。

頭痛

頭痛を伴うこともありますが、硬膜動静脈瘻に特徴的な頭痛とは限りません。

片頭痛や緊張型頭痛など、他の原因による頭痛も多いため、頭痛の性状や経過を確認し、必要に応じて画像検査を行います。

けいれん・意識障害

脳皮質静脈への逆流によって脳静脈のうっ血が生じると、けいれん発作や意識障害などを起こすことがあります。

麻痺・しびれ・歩行障害など

静脈性うっ血や静脈性梗塞によって脳機能が障害されると、

  • 手足の麻痺
  • しびれ
  • 言語障害
  • 歩行障害
  • 認知機能の変化

などの局所神経症状がみられることがあります。

脳出血

脳皮質静脈への逆流を伴う硬膜動静脈瘻では、脳出血やくも膜下出血を起こすことがあります。

突然の激しい頭痛、意識障害、急な麻痺などが出現した場合には、硬膜動静脈瘻に限らず脳卒中の可能性があるため、救急車を要請してください。

硬膜動静脈瘻の検査

硬膜動静脈瘻が疑われる場合には、MRI・MRA、CT・CTAなどを組み合わせて評価します。

MRI・MRA

MRIでは、脳実質の状態や静脈うっ血、静脈性梗塞、出血などの有無を評価できます。

MRAでは、異常な血流や拡張した血管などから硬膜動静脈瘻を疑うことがあります。

ただし、MRAだけではシャントの正確な位置や静脈還流の詳細を十分に評価できない場合があります。

CT・CTA

頭部CTは、脳出血やくも膜下出血などの評価に有用です。

CTAでは造影剤を用いて血管を描出し、流入動脈や静脈洞などの血管構造を評価します。

脳血管撮影

硬膜動静脈瘻の診断と治療方針の決定では、脳血管撮影(digital subtraction angiography:DSA)が非常に重要です。

カテーテルを用いて各血管を選択的に造影することで、

  • シャントの正確な位置
  • 流入動脈(feeding artery)
  • 流出静脈
  • 静脈洞の状態
  • 脳皮質静脈への逆流
  • 合併する動脈瘤など

を詳細に評価できます。

硬膜動静脈瘻では、病変そのものだけでなく、「どの静脈へ、どの方向に血液が流れているか」を把握することが治療方針を決めるうえで特に重要です。

静脈逆流と重症度

硬膜動静脈瘻では、動脈から静脈へ流れ込んだ血液がどこへ流出するかによって、病気の危険性が大きく異なります。

特に重要なのが脳皮質静脈逆流(cortical venous reflux:CVR)です。

脳皮質静脈へ血液が逆流すると、脳静脈の圧力が上昇し、静脈うっ血、静脈性梗塞、脳出血などを引き起こす可能性があります。

そのため、脳皮質静脈逆流を伴う硬膜動静脈瘻では、症状が軽い場合でも将来的な出血や神経症状のリスクを考慮して、早期の治療が検討されます。

一方、脳皮質静脈逆流を認めない一部のタイプでは、症状や血行動態を踏まえて経過観察が選択されることもあります。

Cognard分類

硬膜動静脈瘻では、静脈への血液の流れ方を評価する分類としてCognard分類が広く用いられています。

この分類では、主に静脈洞への流入や静脈逆流の状態、脳皮質静脈への逆流の有無などによって病変を分類します。

特に脳皮質静脈逆流を伴うタイプでは、出血や静脈性うっ血などの神経学的合併症に注意が必要です。

ただし、分類だけで治療方針を決めるのではなく、シャントの位置、流入動脈、流出静脈、静脈洞の状態、症状などを総合的に評価します。

硬膜動静脈瘻の治療

硬膜動静脈瘻の治療では、異常な動静脈短絡(シャント)を閉塞し、正常な静脈還流を保つことを目指します。

現在は、血管内治療(塞栓術)が中心的な治療方法となっていますが、病変の部位や血管構造によっては外科治療や定位放射線治療が選択されることもあります。

血管内治療

血管内治療では、カテーテルを血管内からシャント部位まで進め、塞栓物質を用いて異常な血流を遮断します。

大きく分けて、経動脈的塞栓術(transarterial embolization:TAE)と経静脈的塞栓術(transvenous embolization:TVE)があります。

経動脈的塞栓術(TAE)

TAEでは、硬膜動静脈瘻へ血液を送り込む流入動脈からカテーテルをシャント部位近くまで進め、塞栓物質を用いて異常な血流を遮断します。

塞栓物質としては、NBCA(n-butyl-2-cyanoacrylate)やOnyxなどの液体塞栓物質が用いられることがあります。

病変の血管構造によっては、流入動脈からシャント部を越えて静脈側まで液体塞栓物質を到達させることで、シャントそのものを閉塞することを目指します。

経静脈的塞栓術(TVE)

TVEでは、静脈側からカテーテルをシャント部位まで進め、異常なシャントを閉塞します。

特に海綿静脈洞部や一部の静脈洞型硬膜動静脈瘻では、静脈側からシャント部へ到達するTVEが重要な治療方法となります。

塞栓材料としては、プラチナ製コイルが広く使用されており、病変の血管構造によってはOnyxなどの液体塞栓物質を併用または使用する治療が行われることもあります。

どの方法を選択するかは、シャントの位置、流入動脈、流出静脈、静脈洞の状態、脳皮質静脈逆流の有無などを詳細に評価したうえで決定します。

外科治療

血管内治療で安全に治療することが難しい場合や、病変の位置・血管構造によって外科治療が適している場合には、手術によってシャントを遮断することがあります。

病変によっては、血管内治療と外科治療を組み合わせることもあります。

定位放射線治療

血管内治療や外科治療が難しい一部の硬膜動静脈瘻では、ガンマナイフなどの定位放射線治療が検討されることがあります。

ただし、放射線治療ではシャントが閉塞するまで時間を要するため、病変の血行動態や出血リスクなどを踏まえて適応を判断する必要があります。

治療後の経過観察

硬膜動静脈瘻では、症状が改善しただけではシャントが完全に閉塞したとは判断できない場合があります。

そのため、治療後にはMRI・MRAや、必要に応じて脳血管撮影によって、シャントの残存や再発がないかを確認します。

特に治療後の血管構造を正確に評価するためには、脳血管撮影が必要となる場合があります。

当院での診療

当院では、頭痛、拍動性耳鳴り、めまい、しびれ、麻痺などの症状について診察し、必要に応じてMRI・MRA、CTなどの画像検査を行います。

硬膜動静脈瘻が疑われる場合や画像検査で異常血管が認められた場合には、病変の部位や血管構造を評価し、必要に応じて脳血管疾患を専門とする医療機関へ紹介します。

硬膜動静脈瘻の治療が必要と判断された場合には、血管内治療、外科治療、定位放射線治療など、それぞれの特徴とリスクを踏まえて専門施設と連携して治療方針を検討します。

特に、硬膜動静脈瘻では病変の血管構造が治療方針を大きく左右するため、脳血管撮影による詳細な評価が必要となることがあります。

なお、突然の激しい頭痛、意識障害、急な麻痺など、脳出血や脳卒中が疑われる症状がある場合には、当院への受診を待たず救急車を要請してください。

よくある質問

硬膜動静脈瘻が見つかったら、必ず治療が必要ですか?

必ずしもすべての硬膜動静脈瘻に治療が必要というわけではありません。

ただし、脳皮質静脈への逆流を伴うタイプでは、脳出血や静脈性うっ血などの合併症を起こす危険性があるため、早期の治療が検討されます。

一方、危険な静脈逆流を認めないタイプでは、症状や血行動態などを考慮して経過観察が選択されることもあります。

拍動性の耳鳴りは硬膜動静脈瘻が原因になることがありますか?

あります。

特に心拍に一致する片側性の拍動性耳鳴りでは、横静脈洞・S状静脈洞周辺の硬膜動静脈瘻など、血管性疾患が原因となっている場合があります。

耳鼻科で異常が見つからない場合や、拍動性耳鳴りが持続する場合には、脳血管の評価を検討することがあります。

硬膜動静脈瘻はMRIでわかりますか?

MRI・MRAで疑うことはできますが、MRIだけではシャントの詳細な血管構造や静脈逆流の状態を十分に評価できない場合があります。

治療を検討する場合には、CTAや脳血管撮影などの精密検査が必要となることがあります。

脳動静脈奇形と硬膜動静脈瘻は同じ病気ですか?

同じではありません。

脳動静脈奇形は脳実質内などにナイダスと呼ばれる異常血管の集まりを形成するのに対し、硬膜動静脈瘻では硬膜上に動脈と静脈の異常な短絡が形成されます。

どちらも動脈から静脈へ異常な血流が生じる点は共通していますが、病態や治療方法は異なります。

治療後も検査は必要ですか?

はい。

治療によってシャントが完全に閉塞しているかを確認することが重要です。

治療方法や病変の状態に応じてMRI・MRAや脳血管撮影などによるフォローアップを行います。

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