腰椎すべり症とは、腰椎を構成する椎体が、上下の椎体に対して前後方向にずれる状態をいいます。
医学的には、ある椎体が、そのすぐ下にある椎体に対して前方へ移動することを「すべり」と表現します。
例えば「L4すべり症」といった場合、通常は第4腰椎(L4)が第5腰椎(L5)に対して前方へずれている状態を意味します。つまり、「L4が後方へずれている」という意味ではありません。
このように、腰椎すべり症では、「どの椎体が、どの椎体に対してずれているのか」を明確にして考えることが重要です。
なお、画像上は「L4/5のすべり」と表現されることもありますが、この場合も、L4とL5の間で上位椎体であるL4が下位椎体であるL5に対して前方へ移動していることを指します。
腰椎すべり症にはいくつかのタイプがあり、代表的なものとして、加齢に伴う変化によって生じる変性すべり症と、腰椎分離症に伴って生じる分離すべり症があります。
すべりがあっても症状がない場合もありますが、椎間板や椎間関節などの変性が進行したり、神経の通り道が狭くなったりすることで、腰痛や脚の痛み・しびれ、歩行障害などを生じることがあります。
重要なのは、画像ですべりが認められることと、症状の原因がすべりであることは必ずしも同じではないという点です。
症状や神経学的所見、画像検査などを総合して診断します。
腰椎すべり症にはどのような種類がありますか?
腰椎すべり症は、その原因によっていくつかに分類されます。
変性すべり症
加齢に伴う椎間板や椎間関節などの変性によって、腰椎の安定性が低下し、椎体が前方へずれるタイプです。
特に中高年以降の女性に多く、第4腰椎(L4)が第5腰椎(L5)に対して前方へずれるL4変性すべり症が代表的です。
すべりそのものだけではなく、椎間板や椎間関節、黄色靱帯などの変性が進行することで、脊柱管や神経の通り道が狭くなり、腰部脊柱管狭窄症を伴うことがあります。
分離すべり症
腰椎分離症に伴って椎体が前方へずれるタイプです。
腰椎分離症は、腰椎の後方にある椎弓の一部に骨の連続性が失われる状態で、若年者ではスポーツなどによる繰り返しの負荷が関係することがあります。
分離が生じたすべての人がすべり症になるわけではありませんが、分離部の影響などによって椎体が前方へずれることがあります。
腰椎分離症と分離すべり症は関連する疾患ですが、同じものではありません。
詳しくは「腰椎分離症」のページをご覧ください。
腰椎すべり症はなぜ起こるのでしょうか?
原因はすべり症のタイプによって異なります。
変性すべり症では、加齢に伴う椎間板や椎間関節の変性などが関係します。
椎間板の高さが低下したり、椎間関節の変性が進行したりすると、腰椎を安定させる構造のバランスが変化し、椎体がずれやすくなることがあります。
一方、分離すべり症では、腰椎分離症が背景にあります。
特に成長期にスポーツなどで腰椎を繰り返し伸展・回旋させることで、椎弓に疲労骨折が生じ、それが腰椎分離症につながることがあります。
どのような症状が起こりますか?
腰椎すべり症があっても、症状がまったくない場合があります。
症状がある場合には、腰痛だけでなく、神経の圧迫による脚の症状が現れることがあります。
腰痛
腰椎の変性や不安定性などにより、腰痛が生じることがあります。
特に長時間立っていると腰が痛くなる、腰を動かすと痛みが強くなるといった症状がみられることがあります。
お尻・脚の痛みやしびれ
すべりに伴って神経根が圧迫されると、お尻から脚にかけて痛みやしびれが生じることがあります。
症状の場所は、圧迫されている神経によって異なります。
間欠性跛行
脊柱管が狭くなると、歩いているうちに脚の痛みやしびれ、重だるさなどが強くなり、しばらく休むと再び歩けるようになる「間欠性跛行」がみられることがあります。
これは腰部脊柱管狭窄症に特徴的な症状の一つです。
腰椎すべり症に伴って脊柱管狭窄症を生じた場合にもみられます。
脚に力が入りにくい
神経への圧迫が強くなると、脚や足に力が入りにくくなることがあります。
症状が進行している場合には、早めに専門的な診察を受けることが重要です。
腰椎すべり症の診断
診断では、症状の経過や神経学的所見を確認し、画像検査を組み合わせて評価します。
X線検査
腰椎の配列や椎体のすべりの程度を確認するため、基本的な検査としてX線撮影を行います。
必要に応じて、立位での撮影や腰椎を前後に動かして撮影する動態X線検査を行い、腰椎の不安定性を評価することがあります。
CT検査
CTでは、腰椎の骨の状態を詳しく評価できます。
特に腰椎分離症を伴っている場合には、分離部の状態を確認するうえで有用です。
また、骨棘や椎間関節などの骨性変化を評価することもできます。
MRI検査
MRIでは、椎間板、神経、脊柱管、椎間孔などの状態を評価できます。
腰椎すべり症に伴う脊柱管狭窄や神経根の圧迫、椎間板の変性などを確認するために重要な検査です。
また、症状の原因となっている神経の圧迫部位を確認するうえでも役立ちます。
腰椎すべり症の治療
腰椎すべり症があっても、症状がなければ治療を必要としない場合があります。
症状がある場合には、症状の程度や神経障害の有無、画像所見、腰椎の不安定性などを総合して治療方針を決定します。
保存療法
まずは症状に応じて保存療法を行います。
- 鎮痛薬・消炎鎮痛薬
- 神経障害性疼痛に対する薬物療法
- リハビリテーション
- 腰部への負担を軽減するための姿勢・動作指導
- 必要に応じた神経ブロックなど
症状が落ち着いてきた場合には、体幹の筋力や柔軟性を維持しながら、できる範囲で日常生活や運動を継続することが重要です。
手術療法
保存療法を行っても症状が改善せず、日常生活に大きな支障が続く場合には、手術を検討します。
特に、
- 強い脚の痛みやしびれが長期間続く
- 間欠性跛行によって歩行できる距離が短くなっている
- 筋力低下などの神経障害が進行している
- 保存療法で十分な改善が得られない
といった場合には、手術が選択肢となります。
手術では、神経を圧迫している骨や靱帯などを取り除く除圧術や、腰椎の不安定性などを考慮して脊椎固定術を組み合わせる方法があります。
どの術式が適切かは、すべりの程度だけで決まるものではありません。
神経の圧迫状態、腰椎の不安定性、腰痛の程度、椎間板や椎間関節の状態などを総合して判断します。
腰椎すべり症では、すべりが大きいほど重症なのでしょうか?
必ずしもそうではありません。
画像検査ですべりの程度が大きくても、症状がほとんどない方もいます。
反対に、すべりが比較的小さくても、脊柱管や神経根の通り道が狭くなっている場合には、強い脚の痛みやしびれ、間欠性跛行などが生じることがあります。
そのため、すべりの程度だけで治療の必要性を判断することはできません。
症状と神経学的所見、画像所見を総合して判断することが重要です。
腰椎すべり症と腰部脊柱管狭窄症の関係
腰椎すべり症では、椎体のすべりに加えて、椎間板や椎間関節、黄色靱帯などの変性が進むことで、脊柱管や神経の通り道が狭くなることがあります。
その結果、腰部脊柱管狭窄症と同様に、脚のしびれや痛み、間欠性跛行などが生じることがあります。
つまり、腰椎すべり症そのものと腰部脊柱管狭窄症は別の病態ですが、両者が同時に存在することがあります。
腰椎すべり症と腰椎分離症の関係
腰椎分離症は、腰椎の後方にある椎弓の一部に骨の連続性が失われる状態です。
腰椎分離症があると、椎体が前方へずれて分離すべり症となることがあります。
一方、変性すべり症は、腰椎分離症を伴わず、主に椎間板や椎間関節などの加齢に伴う変性によって生じます。
このように、「腰椎すべり症」という言葉の中にも異なる病態が含まれるため、原因や年齢、画像所見などを考慮して診断することが重要です。
当院での診療
当院では、腰痛や脚の痛み・しびれ、歩行障害などの症状に対して、脳神経外科・脊椎脊髄外科の専門的な視点から診療しています。
症状の経過を詳しく伺い、神経学的診察を行ったうえで、必要に応じてX線、CT、MRIなどの画像検査を行います。
X線では腰椎の配列やすべりの程度、必要に応じて腰椎の不安定性を評価します。
CTでは骨性変化や腰椎分離症の有無などを確認し、MRIでは脊柱管、神経根、椎間板などを評価します。
腰椎すべり症があっても、必ずしも手術が必要というわけではありません。
症状や神経学的所見、画像所見を総合し、保存療法を基本としながら、一人ひとりの状態に応じた治療方針をご提案します。
手術が必要と判断された場合には、適切な専門医療機関と連携して治療を行います。
このような症状でお困りではありませんか?
- 腰痛が続いている
- 立っていると腰が痛くなる
- お尻から脚にかけて痛みやしびれがある
- 歩くと脚が痛くなり、休むとまた歩ける
- 脚に力が入りにくい
- 最近、歩ける距離が短くなってきた
- 腰痛や脚の症状が徐々に悪化している
このような症状がある場合には、腰椎すべり症だけでなく、腰部脊柱管狭窄症や腰椎椎間板ヘルニアなど、他の脊椎疾患が関係している可能性もあります。
症状が続く場合には、一度専門医による診察を受けることをおすすめします。
よくある質問
- 腰椎すべり症は進行しますか?
-
すべての腰椎すべり症が進行するわけではありません。
変性すべり症では、椎間板や椎間関節などの変性に伴って状態が変化することがありますが、すべりの程度が必ず徐々に大きくなるとは限りません。
また、すべりの程度だけではなく、神経の圧迫や腰椎の不安定性、症状の変化を確認することが重要です。
症状が変化した場合には、再度診察や画像検査を行って状態を確認します。
- 腰椎すべり症があると言われました。手術が必要ですか?
-
必ずしも手術が必要というわけではありません。
画像ですべりが認められても、症状が軽い場合や神経障害がない場合には、経過観察や薬物療法、リハビリテーションなどの保存療法を行うことが一般的です。
症状が強く続く場合や、神経障害が進行する場合には、手術を検討します。
- 腰椎すべり症は治りますか?
-
「すべり」を完全に元の位置へ戻すことだけが治療の目的ではありません。
症状がない場合には治療を必要としないこともあります。
症状がある場合には、痛みを軽減し、神経への圧迫を改善して、日常生活や歩行機能を維持することを目標に治療します。
- 腰椎すべり症と腰部脊柱管狭窄症は同じ病気ですか?
-
同じ病気ではありません。
腰椎すべり症は椎体がずれる病態であり、腰部脊柱管狭窄症は神経の通り道が狭くなる病態です。
ただし、腰椎すべり症に伴って脊柱管が狭くなり、腰部脊柱管狭窄症の症状を生じることがあります。
- 腰椎分離症があると、必ずすべり症になりますか?
-
いいえ。
腰椎分離症があっても、必ず椎体がすべるわけではありません。
腰椎分離症の状態や年齢、腰椎への負荷などによって経過は異なります。
- すべりが大きいほど症状も強くなりますか?
-
必ずしもそうではありません。
すべりの程度だけではなく、神経の圧迫の程度や腰椎の不安定性、椎間板や椎間関節の状態などによって症状は異なります。
そのため、画像だけではなく、症状や神経学的所見を合わせて評価することが重要です。
