片頭痛の新しい治療薬 ― CGRP関連薬について

片頭痛の治療には、頭痛が起こったときに症状を抑える「急性期治療」と、頭痛が起こる回数や生活への影響を減らすことを目的とした「予防治療」があります。

近年、片頭痛の治療薬は大きく進歩しました。特に、片頭痛に関係するCGRPという物質を標的とした薬が登場し、治療の選択肢が広がっています。

一方で、薬の種類が増えたことで、「それぞれ何が違うのか」「自分にはどの薬が合っているのか」と迷われる方もいると思います。

ここでは、現在日本で使用されているCGRP関連薬を中心に、それぞれの特徴や違い、副作用や使用上の注意、片頭痛の予防治療について説明します。

片頭痛の治療には「発作を抑える治療」と「発作を減らす治療」があります

片頭痛の治療には、大きく分けて2つの方法があります。

ひとつは、現在起こっている頭痛をできるだけ早く抑える「急性期治療」です。

一般的な鎮痛薬やトリプタン系薬剤などが使われてきました。近年では、CGRP受容体拮抗薬であるナルティークや、CGRPとは異なる作用機序を持つレイボーも急性期治療の選択肢となっています。

もうひとつは、片頭痛が起こる回数を減らしたり、頭痛による日常生活への影響を小さくしたりする「予防治療」です。

CGRP関連薬のうち、エムガルティ、アジョビ、アイモビーグ、アクイプタは、片頭痛発作の発症を抑えることを目的とした予防治療に使用されます。

ナルティークは、急性期治療と発症抑制の両方に使用できる薬剤です。

CGRP関連薬とは?

CGRPは「カルシトニン遺伝子関連ペプチド(calcitonin gene-related peptide)」という神経ペプチドです。

片頭痛の発作では、三叉神経系の活性化などに伴ってCGRPが関与し、痛みの伝達や血管周囲の反応などに影響すると考えられています。

CGRP関連薬は、このCGRPの働きを抑えることで片頭痛の治療を行う薬です。

現在日本で使用されているCGRP関連薬には、大きく分けて「抗CGRP抗体」「抗CGRP受容体抗体」「CGRP受容体拮抗薬(ゲパント)」があります。

現在使われているCGRP関連薬

抗CGRP抗体

抗CGRP抗体は、CGRPそのものに結合して、その働きを抑える注射薬です。

現在、日本ではエムガルティとアジョビが使用されています。

エムガルティ(ガルカネズマブ)

エムガルティは、CGRPそのものに結合するヒト化モノクローナル抗体です。

片頭痛発作の発症抑制を目的として使用されます。

通常、初回に240mgを皮下投与し、その後は1か月間隔で120mgを皮下投与します。

副作用として、注射部位の痛み、赤み、腫れなどの注射部位反応のほか、便秘、かゆみ、発疹などがみられることがあります。また、頻度は高くありませんが、アナフィラキシー、血管浮腫、蕁麻疹などの重篤な過敏症反応が起こることがあります。

本剤の成分に対して重篤な過敏症の既往がある場合は使用できません。

アジョビ(フレマネズマブ)

アジョビもCGRPそのものに結合する抗体薬です。

片頭痛発作の発症抑制を目的として使用され、4週間に1回225mg、または12週間に1回675mgを皮下投与する方法があります。

副作用として、注射部位の痛み、硬結、赤み、かゆみ、発疹などがみられることがあります。また、まれにアナフィラキシー、血管浮腫、蕁麻疹などの重篤な過敏症反応が起こることがあります。

本剤の成分に対して重篤な過敏症の既往がある場合は使用できません。

抗CGRP受容体抗体

アイモビーグ(エレヌマブ)

アイモビーグは、CGRPそのものではなく、CGRPが作用する「CGRP受容体」に結合する抗体薬です。

片頭痛発作の発症抑制を目的として使用され、通常は4週間に1回70mgを皮下投与します。

副作用として、便秘、注射部位の反応などがみられることがあります。

特にアイモビーグでは、重篤な便秘が報告されており、まれに腸閉塞などの合併症を伴うことがあります。また、アナフィラキシー、血管浮腫、蕁麻疹などの重篤な過敏症反応にも注意が必要です。

本剤の成分に対して過敏症の既往がある場合は使用できません。

CGRP受容体拮抗薬(ゲパント)

ゲパントは、CGRPそのものを抗体で捕まえるのではなく、CGRP受容体を直接阻害する内服薬です。

抗体薬と比べて、内服で使用できることが特徴です。

ナルティーク(リメゲパント)

ナルティークは、CGRP受容体拮抗薬です。

日本では、片頭痛発作が起こったときの「急性期治療」と、片頭痛発作の回数を減らす「発症抑制」の両方に使用できます。

急性期治療では発作時に75mgを服用し、発症抑制では75mgを隔日に服用します。

副作用として、悪心、便秘、めまいなどがみられることがあります。また、まれに過敏症反応が起こることがあります。

本剤の成分に対して過敏症の既往がある場合は使用できません。

ナルティークはCYP3A4やP-gpなどの影響を受けるため、ほかの薬剤との併用に注意が必要です。特に、一部の抗菌薬、抗真菌薬、抗ウイルス薬などでは薬剤の血中濃度に影響することがあります。

現在服用している薬がある場合には、受診の際にお伝えください。

アクイプタ(アトゲパント)

アクイプタもCGRP受容体拮抗薬ですが、片頭痛発作の発症抑制を目的として使用される内服薬です。

通常、成人では1日1回服用します。

副作用として、悪心、便秘、眠気、疲労、食欲減退などがみられることがあります。また、まれに過敏症反応が起こることがあります。

本剤の成分に対して過敏症の既往がある場合は使用できません。

アクイプタはCYP3AやOATPなどの影響を受けるため、ほかの薬剤との併用によって血中濃度が変化することがあります。また、重度の肝機能障害や腎機能障害がある場合には、使用方法について特別な注意が必要です。

5つのCGRP関連薬は何が違うのでしょうか?

薬剤種類使用方法主な目的
エムガルティ抗CGRP抗体注射発症抑制
アジョビ抗CGRP抗体注射発症抑制
アイモビーグ抗CGRP受容体抗体注射発症抑制
ナルティークCGRP受容体拮抗薬(ゲパント)内服急性期治療・発症抑制
アクイプタCGRP受容体拮抗薬(ゲパント)内服発症抑制

このように、同じ「CGRP関連薬」でも、注射薬と内服薬があり、作用する場所や使用目的も異なります。

ただし、薬の種類だけを比較して「どの薬が最も優れている」と決めることはできません。

頭痛の回数や程度、日常生活への影響、これまで使用した薬の効果や副作用、ほかに治療している病気や使用中の薬などを考慮して、治療方法を選択します。

どの薬が自分に合っているのでしょうか?

片頭痛の治療では、単純に「一番強い薬」「一番新しい薬」を選ぶという考え方ではなく、その方の頭痛の特徴に合わせて治療方法を考えることが大切です。

例えば、次のような点を確認します。

  • 1か月に何日くらい頭痛があるか
  • 片頭痛によって仕事、学校、家事などにどの程度支障が出ているか
  • 1回の頭痛がどのくらい続くか
  • 急性期治療薬が十分に効いているか
  • 頭痛薬を使用する日数が増えていないか
  • これまでに予防治療を行ったことがあるか
  • これまでの薬で副作用がなかったか
  • 注射薬と内服薬のどちらが生活に取り入れやすいか
  • 腎臓や肝臓の病気など、ほかに治療中の病気がないか
  • 現在使用している薬との飲み合わせに問題がないか

そのため、「どの薬が一番効くのか」という視点だけではなく、「現在の自分の頭痛には、どのような治療が適しているのか」という視点で考えることが大切です。

どんな場合に予防治療を検討するのでしょうか?

片頭痛の予防治療は、頭痛の回数が多い場合だけに行うものではありません。

頭痛の頻度が高い場合に加えて、頭痛によって仕事や学校、家事などの日常生活に大きな支障が出ている場合、急性期治療だけでは十分にコントロールできない場合、急性期治療薬の使用が増えている場合などに、予防治療を検討します。

CGRP関連薬の使用については、十分な診察を行い、片頭痛であることを確認したうえで、非薬物療法や急性期治療などを適切に行っても日常生活に支障が残る場合に、その適用を検討することが添付文書にも記載されています。

また、治療を開始した後も、効果が得られているかを定期的に確認し、治療を継続する必要があるかを検討します。

CGRP関連薬の副作用や使用上の注意

CGRP関連薬は比較的新しい薬ですが、「副作用がない薬」というわけではありません。

薬剤によって副作用の種類や注意点が異なります。

注射で使用する抗CGRP抗体では、注射部位の痛み、赤み、腫れなどが比較的よくみられます。

また、アイモビーグでは便秘に注意が必要です。まれではありますが、重い便秘に伴って腸閉塞などの合併症が起こることがあります。

内服薬であるゲパントでは、悪心、便秘、眠気、疲労などがみられることがあります。また、薬剤によってはCYP3A4やP-gpなどを介した薬物相互作用に注意する必要があります。

いずれの薬剤でも、まれにアナフィラキシー、血管浮腫、蕁麻疹などの重篤な過敏症反応が起こることがあります。

治療中に気になる症状が出た場合には、自己判断で治療を続けたり中止したりせず、ご相談ください。

妊娠・授乳中の場合

妊娠中、妊娠の可能性がある場合、または妊娠を希望されている場合には、CGRP関連薬を使用する前に必ず医師へお伝えください。

現在使用されているCGRP関連薬について、妊娠中の安全性を十分に確認できるだけの臨床データはまだありません。

抗CGRP抗体については、ヒトIgGであることから胎盤を通過する可能性があり、各薬剤の添付文書では、妊婦または妊娠している可能性のある女性について、治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与することとされています。

ゲパントについても、妊娠中の使用について十分な臨床データがあるとはいえません。ナルティーク、アクイプタともに、妊娠中は治療上の有益性と危険性を考慮して使用を判断します。

妊娠を希望されている方、妊娠が分かった方、授乳中の方は、自己判断で薬を開始・中止せず、必ず医師にご相談ください。

CGRP関連薬以外の新しい片頭痛治療薬

レイボー(ラスミジタン)

レイボーは、CGRPを標的とする薬ではありません。

5-HT1F受容体に作用する薬剤で、片頭痛発作が起こったときに使用する急性期治療薬です。

トリプタン系薬剤とは異なる作用機序を持つことが特徴です。

一方で、レイボーでは眠気やめまいなどがみられることがあります。そのため、服用中は自動車の運転など危険を伴う機械の操作を行わないよう注意が必要です。

また、レイボーは「片頭痛」と診断された患者さんに使用する薬剤であり、これまで片頭痛と診断されたことがない場合や、これまでとは明らかに異なる頭痛の場合には、薬を使用する前に頭痛の原因を確認する必要があります。

新しい薬を使う前に、まず「どんな頭痛なのか」を確認すること

頭痛には片頭痛以外にもさまざまな原因があります。

特に、突然発症した非常に強い頭痛、これまで経験したことのない頭痛、意識障害やけいれん、手足の麻痺・しびれ、言葉が出にくいなどの神経症状を伴う頭痛では、くも膜下出血などの脳血管障害を含め、ほかの病気を考える必要があります。

また、これまで片頭痛と診断されていた方でも、頭痛の性状や経過が大きく変わった場合には、改めて原因を確認することが大切です。

「頭痛があるから片頭痛の薬を飲む」というのではなく、まずどのような頭痛なのかを確認したうえで治療を選択することが重要です。

片頭痛の治療は、一人ひとりの頭痛に合わせて

片頭痛の治療薬は、この数年で大きく進歩しました。

CGRP関連薬やレイボーなどが加わったことで、以前よりも多くの治療方法から選択できるようになっています。

一方で、「新しい薬だから良い」「注射だから良い」「飲み薬だから良い」というわけではありません。

頭痛の頻度や程度、日常生活への影響、これまでの治療経過、副作用、ほかの病気や使用中の薬などを考慮しながら、その方に合った治療方法を選択します。

また、薬剤の適応、用法・用量、注意事項などは変更されることがあります。

実際の治療については、診察時に最新の添付文書やガイドラインを確認しながら判断します。

片頭痛について詳しく知りたい方へ

片頭痛の症状や診断、一般的な治療については、こちらのページで詳しく説明しています。

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最終更新:2026年11月